金色の眼の猫
古石 篤子
この本は、フランス語の初心者向けにつくられた、CD付きの絵本です。1992年のNHKラジオ「フランス語講座入門編」で好評だったテキストが土台になっています。
(1)内容
ストーリーは、日本人少女マヤと金色の眼の猫ぺピートの冒険物語です。ファンタジーとサスペンス双方の要素を兼ね備えているため、悪評高い結末をのぞけば、大人でも十分楽しめる内容になっています。
冊子は、テキストと語句ポイント編の2部構成です。
テキストには、照井喜美子さんの不思議な雰囲気を漂わせた挿絵が78枚ほど収録されています。ただ、残念なことに、挿絵は白黒です。
語句ポイント編には、テキストの会話を理解するために必要な単語の意味や用法、文法などの分かりやすい説明があります。各ユニットの後には、練習問題もついています。
添付CDは、物語を効果音入りのクリアな音声で、臨場感たっぷりに朗読してくれます。
(2) 使用してみた感想
使用されている単語が基本語彙に限定されているので、初心者でもストーリーを追いやすくなっています。
また、語彙が制限されているわりには、通常のラジオ教材のように、単なる会話の寄せ集めになっておらず、よく練られた一貫したストーリーがサスペンス仕立てで進むので、飽きることなく読み進めることができます。
ただ、わたしは気になりませんでしたが、結末だけはどうも当時からたいへん不評だったようです。
さらに、もともとが20分のラジオ講座用のテキストだったせいか、全体が78話に細分化されているので、一度に学習するのに手ごろな分量となっています。
CDも78に細分化されているので、リオに落とす際にも楽に出来ました。
しかし、本書が他の絵本と一線を画すのは、文法や語彙レベルが回を追うごとに少しずつ無理なく上がっていく、という巧妙な仕掛けがほどこされている点にあります。
たとえば、絵本といっても、この本では接続法まで出てきます。しかし、それは学習が進んだ最後の方の場面にならないと出てこないのです。
通常の絵本では、まんべんなく複合過去やら接続法やら条件法が現れます。単語も後に行くにしたがって語彙レベルが上がっていくというようなことはありません。
ところが、本書では、はじめは直説法現在しか出てきません。そのため、フランス語を学びたてのほやほやの方でも、初めのうちは十分に楽しめるのです。
逆にいうと、自分の学習レベルが上がらないと、後半にしたがって読めなくなってくるのです。しかし、ストーリーがおもしろいため、先が知りたい、という思いが学習のモティベーションを決して下げないのです。
この、エンターテーメントとエデュケーションの目立たない融合こそが、本書の非常に優れた仕掛けなのです。
(3) わたしの利用法
わたしは、この本は、学習教材としてではなく、もっぱら気晴らしに聴く、楽しむためだけの本と位置づけています。
だから、少々分からないことがあっても、辞書も引きませんでしたし、ましてや語句ポイント編などはめったに開いたことがありません。また、日本語訳もまだ一度も読んだことがありません。
挿絵があるため、最後まで聴くとだいたいの流れはつかめますし、結末もだいたい見当がつきます。しかし、まだわたしの実力では、辞書や解説、日本語訳なしに理解することはできませんので、当然、ストーリーには分からないことだらけです。
でも、それでいいと思っています。
ときどき思い出したように絵本を開き、あるいはCDを聴き、そうして、自分の学習レベルが上がっているという確かな手ごたえを感じる喜びがあるからです。
フランス語を学び始めの方が、最初に手にする絵本としては最適だと、自信をもっておすすめできます。
ゆめゆめ学習の初期に「星の王子さま」などに手をお出しにならないように。わたしのように、本棚に飾るだけのことになってしまいますから。